もっと早く〜too late!〜

I have been loving you since I saw,so I didn't say to you "This grasses match you " at that time.


結構この状況はいただけなかったりする。いや、無論いい意味でそういってるのだが、どうにもこれを変えようとしない俺は案外変態なのかもしれない……。
「なぁ、里伽子。」
「残念。私ここから動く気はないわ。」
「うっ…」
いや、それはそれで困るけどありがたい……ってそれが聞きたかったんじゃない!
「そうじゃなくて…いつもなんか見にくそうにしてるから眼鏡でもひぃっ!!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ!」
「悪かった、悪かったから胸を押し当てないでくれー!!」
確かにあれは俺が悪い。
里伽子はド近眼で、コンタクトか眼鏡でもはめてないとそれはそれはもう素晴らしい視力で5cm先もぼやけるほどだ。小数点以下3桁に突入したとかしてないとか、ついにマイナスに突入したとか。いや、風の噂。
「あの時ほど仁と一緒にいることを後悔したときはなかった。あ…違う。」
それは、多分あのことを示唆した言葉。俺の中でも一番後悔した、あのこと。
「……言っても足りないけど、ごめん。」
「え…あ、違うの。その…」
里伽子を傷つけたのは間違いなく俺で、一緒にいることを後悔させたのも俺。
「悪かった。」
「違うの、ねぇ仁、そんなに追い詰めないで。」
「いや、間違いなく俺が悪いんだし…」
「もういいから!」
「!」
「もういいよ。わかってるから。」
苦い。口の中が。どんなに頑張っても消せない、あの日の傷跡。
里伽子も、顔を背けてしまった。


どれくらいそうしていたのかも知らぬままに、俺は何とかしてこの気まずい雰囲気を解消しようと、ある話を口にした。
「あのな、里伽子と眼鏡を選びに行った日のことだけどな…」
里伽子の表情は見ないで進める。結局は、最初にしようと思っていた話を蒸し返しただけだけど。
あいつが俺の前で眼鏡をかけるのを嫌がる…っていうか最早トラウマと化していることは、一年前の眼鏡屋での出来事が原因だった。
実にそのストーリーは簡潔でわかりやすい。あいつと一緒に眼鏡屋へ眼鏡を選びに行った。無論俺のものではないが。
そこで眼鏡をかけて『どう?』って聞かれる前に俺が眼鏡をかけた姿を大笑いしてしまいましたとさ。
以上。実に簡潔だ。余談だけどこのあと一ヶ月は話もさせてもらえませんでした。
ちなみにその間に、友人Aが俺に言ったことといえば、
『夏海が怖いよぉ…』
…俺もそう思ったさ。
ということがあって以来、俺の前で絶対に眼鏡をかけることをしたくないのである。
が、それは表向きの話。
「あの時思わず笑っちまったけど、本当はすごく似合っててさ、」
「えっ?…」
そう、裏向きは眼鏡をかけたあいつがすごい似合ってて、綺麗だった。あの時、俺はすでに里伽子のことが好きで…でもそれに気づかれたくなかったから、何とかしてごまかそうと思った。
まぁ結果はそれが最悪の方向に転がったっつーか俺の機転の利かなさをもろに露呈したわけであって。
「って言うわけなんだ。」
ああ、結構あのときの事を思い出すとへこむ。別に普通に『似合ってるんじゃない?』って言えばそれでよかったのにどうして俺そんなことが出来なかったんだろうか…。
やっぱり俺ダメ男?
「そうなんだ…」
そういうなり里伽子は起き上がって、未だ状況もわからず寝そべっている俺の隣に座った。つか刺激的過ぎる、刺激的過ぎるから!!
「仁、ちょっとここに座ってくれない?」
なんか目が怖いんだけど?!でも今のこいつに逆らったら今すぐ父さんや母さん、兄ちゃんに会いにいけそうな気がするからおとなしくその指示に従う。
「その…悪かった里伽子。」
その瞬間、里伽子の右ストレートが、しっかりと決まった。
……いいパンチだぜ。里伽子。
そして朝まで気持ちのよくない眠りをする羽目になった。


闇夜の部屋の中に、白い肌だけがスポットライトを浴びているかのように、やけに目立つ。その露になった魅惑の肢体は、見るものすべてを魅了することが必然。
優しさなのか、困惑なのか、怒りなのか。
きっと、そのすべてを含んでいたに違いない笑みを浮かべて、彼を見つめる。
「もっと早く言いなさいよ…この馬鹿。」
夜の静けさも消えようとしている。その言葉は、誰に言ったのかわからないまま、虚空へと消えた。


台所から音がする、ああ、これはいつもの音。里伽子が早起きして、俺に朝食を作ってくれる音だ………ってちょっと待て。
「里伽子?!」
「あ、おはよう。着替えるの大変だから仁のTシャツ借りてる。」
「ちょ、ちょっと待て、やっぱり来るな!」
朝っぱらから心の準備もなくそんなもの見せられたらたまったものじゃない…主に俺の理性が。
二・三回深呼吸をして、台所へと行く。
「まったく、仁の変態。」
「り、里伽子それ…」
俺のTシャツを着ている里伽子が、眼鏡をかけていた。
「どう?似合ってる?」
俺は唾を一つ飲み込んで、しっかりと答えた。今度こそ間違わないように。
「ああ、すげぇ似合ってる。」