Good Morning!

白い雪が舞い降りた後は、必ず花香る春がやってくることは自明の理。そんなことはとっくの昔にわかっているというのに、何故だろう、春が待ち遠しくなる。
「あーあ、こんな寒くちゃやってらんないよなー。」
と一人愚痴ってみても変わるはずがない北国の冬。どうして周りのやつらはこうも薄着(祐一視点による)でいられるのか謎でたまらんぞ。いやまったく。余談だが、俺の財布の中も寒い。
そういえば、今日はゆったり学校に行けるんだな。と祐一は思う。普段は寝てるんだか起きてるんだか判別のつかない眠り姫こと俺のいとこ水瀬名雪に付き合わされて学校まで猛ダッシュだ。……改札出てないから不良じゃないぞ。うん。
そしてさらに今日はうぐぅとかあぅーもいないほどの早起きだ。そんなんだから秋子さんに、
「あらあら祐一さん、今日は早起きなんですね。ではジャムはいか「結構です。」…そう、残念。」
とか言われたりして生命の危機だったことを告げておく。
うぐぅー!!!」
「あぅー!!!!」
…や、この声は謎ジャムのせいではないと信じたい。ていうか信じさせてくれ…。
「おはようございます。相沢先輩。…って何故そんなに顔が青いんですか?」
「おぅ、みっしーか。」
ショートカットの後輩の一人、天野美汐がそこにいたりする。
「…みっしーと呼ぶのはやめてくださいと何度も申し上げてるはずですが。」
「むぅ、なんか言い方がおばさんくさいぞ。」
「そんな酷な事はないでしょう。それより、顔が青いですけど、体調悪いんですか?」
「いや…今日朝秋子さんに謎ジャムを勧められたんだ。」
「…それはお気の毒に。」
美汐でさえ非常に気の毒そうな目で見る。ああ、あのジャムやっぱり禁制にすべきだよな。
「…ってみっしーはさっきの叫び声聞こえなかったのか?」
「? 何かありましたか?」
そうか…俺、いよいよニュータイプになったのか…。ビットもファンネルもよけられるな。
「それは違うと思います。」
一発で否定されました。っていうか俺また口に出してましたか。くそぅ、この癖直したいぜ。
「一生直らないと思います。」
速攻断言ですか美汐さん。って断言されてるってことはまた口に出してるってことでまぁ直らないなら…
「直らないでいいか。」
「…開き直りですか。」
「おう、これでも小学生の頃は開き直り祐ちゃんと呼ばれてたんだ。」
「…それは誇るべきところなんでしょうか?」
「まぁそれは置いといて、みっしーはいつもこの時間に登校してるのか?」
「はい。時々美坂先輩とか栞さんも見かけますよ。」
「ほぅー。でも早起きして何がいいんだろうな。」
「相沢先輩にはわからないでしょうけど、女の子は色々と準備に時間がかかるんですよ。」
「…そうだよなぁ。」
だとしたらあのねぼすけないとこは何に分類すればいいんだろう。新しい疑問だ。今日のアンテナとの話題にしよう。
「で、早起きしてるわけか。」
「はい。」
ふむ…しかし…
「あの…何か?」
「いや、別に準備なんかしなくてもなぁ…って。」
「何故ですか?」
「みっしーとか十分かわいいしな。」
ただでさえさっきから祐一に見つめられて少し赤みを増していた顔が、まるで林檎のように真っ赤になる。
「…そういう訳にもいかないんですよ。」
「そうなのか?…ああ、寝癖とかは確かになおさきゃならないな。」
「それもありますけど…お弁当作らなきゃならないですから。」
「お、みっしーは自分で作ってるのか?」
「はい。」
「ふむ……」
「なんでしたら」
「ん?」
「相沢先輩の分も作りましょうか?」
「いいのか?!」
「はい。二人分なら十分に作る時間はありますので。」
「よっし、じゃあみっしー、頼んだ!」
祐一が思いっきりガッツポーズをするのを回りは怪訝な目で見つめていた。
「みっしーの弁当か…。」
「あまり期待はしないでください。その…」
「いや、期待する。」
なんて禅問答を繰り返してるうちに、下駄箱の近くまでやってきた。
「私はこちらですので。これで。」
「おぅ。」
二人は別の方向へ別れた。と、美汐が振り向いて祐一を呼び止めた。
「相沢先輩。」
「何だ?」
「明日、お昼待ってますね。」
「おう。」
その表情は、どこか輝いているような気がした。