D.C.〜遠回りなわたし達〜

桜が散っていくのと同じくして、私達は前進したように思う。
何で変わらなかったのかを誰もが不思議に思うかもしれないけれど、島に変わらないものがあったように、私達も変われなかったのかな。
今、島を離れてそう思う。美春やことりさん、眞子や萌さんまでもいたのに、何一つ兄さんの回りが変わっていなかったのは、歯車を動かす鍵がなかったからかもしれない。
その歯車をまわすために、色々大変な目にあったんだけど…。
音夢、彼氏とはどうなの?」
「え、えっと…。」
今も、結構大変な目にあってると思う。


D.C.〜遠回りな私達〜


「でもまさか音夢に彼氏がいるなんてね」
「いや、こんなかわいい子男達が放っておくわけないでしょう。」
「あぅ…」
彼氏が本当に兄さんであることは皆は知らない。兄さんと呼んでいるのは、そんなイメージがあるからって説明してある。
「はぁ、でも一歩間違えたら悪女だよね。まっすぐ育ってくれて嬉しいわよ。」
「同感。…どうやったらそんなにかわいくなれるのか知りたいところだけど。」
「………」
え、えっと…それは喜んでいいのか怒ればいいのか。どっちなんでしょうか。
「そういえば、明日からはどうするの?やっぱり島に戻るの?」
「うん。」
そう、明日からは夏休み。久しぶりの帰省、と言ってもGW以来だけど。
「GW以来じゃあ楽しみだろうなぁ。」
「三ヶ月も我慢したもんねー。」
「あぅ……」
明日会えるのが楽しみだから、今の責め苦に耐えろというのですか神様。そんな理不尽なこと、やめて欲しいです…。


けたたましく目覚ましの音が鳴って、惰眠を貪る俺を邪魔する。まったく、学生の天国、夏休みに目覚ましを鳴らして早起きするなんぞ本来の目的からまったくかけ離れた行為だ。
ということで、目覚ましを止めて眠ることにする。そのついでに今日の日付を確認しておく。夏休みは何かと日付感覚が狂いがちだからな。
日付を確認した時、今日は何かがあったような気がした。最も、その日何があるのか気付いたのは、6時間後、ブラックアウトした意識がようやく目覚めて、腹に痛みを覚えた時だったのだ。
腹に痛みを覚える。それはつまり、昔行われていた行為が行われていたと言うことだ。そこで俺は気付いたのだ。
「…今日、音夢が帰ってくるんだった…。」
人はそれを手遅れという。一階では、視線で人を殺せそうな妹…うん、妹が立っていた。
「や、やぁ、おはよう、音夢。」
「おはようございます、兄さん。ずいぶんとごゆっくりとしたお目覚めなことで。」
カタストロフィだ。いや、ぶっちゃけ今の気分は、目の前で堂々とデ○○ートに名前と死因を書かれた感じだ。
「私、手紙にも書きましたよ。」
昨日届きました。
「私、電話もしましたよ。」
朝、昼、晩と三回連続似たような出だしで始まる電話なんて初めて聞いたよ。
「今何か変なこと考えましたね?」
「いや、考えてないぞ。」
「うそです。何を考えていたんですか?」
やっぱりこいつ、ESPだ。違いない。
だが、俺としてもここで死ぬわけにはいかないので、何とかしてこの場をしのがなくてはならない。…おっ、
「いや、音夢に会いたかったな、と。」
「その割に迎えに来てくれませんでしたね。」
…間違えた。
「私を騙そうとするなんて、兄さん、覚悟はいいですか?」
ああ、父さん、母さん、先立つ不幸をお許しください。
今日二度目の広辞苑は、まともに意識があった分、朝より最悪なものだった。


気がついてみると夜だった。まぁ、時間換算してみても、なんら不自然なところはない。何とまぁ、12時間も音夢広辞苑でくたばっていたのだ。恐るべし、音夢
「兄さん、起きた?」
「あぁ…」
音夢の膝枕は気持ちいいものだった。しかし、やっぱり腹の痛みまでは忘れさせてくれない。…内臓破裂なんてことはないと思うけど。
「…大丈夫?」
「まぁ、何とか。」
いざとなったら眞子に頼み込むかとか考えて、音夢の180度うって変わった態度を疑問に思う。俺がくたばっていた間に何かあったのだろうか。
「なぁ音夢、何かあったのか?」
「どうして?」
「いや……」
鬼神のようなあの音夢は一体どこへいったんですか?なんて聞けるわけないだろう。
「えっと……ごめんなさい。」
「はっ?!」
何でそこで音夢が謝るんだ?
「その、我侭いっちゃって…」
「いや、それは音夢が悪いわけじゃないだろ?」
「…兄さんが起きれないことは自明のことだったし、それに兄さんに一番に会いたいんだったら遅い船でこればよかったんだし…」
結構けなされている気もするが、それは本当のことだからしょうがない。でも、音夢が心変わりをした理由が何かあるはずだ。
「なぁ、音夢、俺が寝てる間に何かあったのか?」
そう聞くと、音夢はぽつり、ぽつりと話し出した。
「時間、無駄にしちゃったなって。せっかく兄さんに会えたのに…。」
「夏休み長くなくて、一秒でも兄さんと過ごすのを無駄にしたくないのに、自分から無駄にしちゃって。」
「我侭、ばかりで。」
…ああ、そういえば。こいつ、やきもち焼きで、我侭で、何かと意地はって。
家事のほとんどを上手くこなすくせに、料理だけは殺人的で。
そのくせして、甘えんぼで、
音夢が悪いんじゃない。約束を破った俺が悪いんだ。」
「でも…」
そして、俺が真剣になって謝ると、自分が悪いかのように振舞うやつってこと、すっかり忘れてた。
「こんな形でも一緒にいられたんだから、別に無駄じゃねぇよ。それに…その、夜も一緒なんだろ?」
何だか言っていて恥ずかしくなってくるが、この際やけだ。
「そうだね、兄さん。」
音夢が微笑む。よかった。やっぱり、音夢には笑顔が似合う。…悪かったな、惚気だよ。
「夜も一緒だもんね。」
そっと俺に伝わる、柔らかな感触。目の前にある音夢の赤みの差した顔は、真っ白なだけによく目立つ。
音夢
「兄さん」
だから、もう一度口付けをした。