特になんていうタイトルはないんですが

「ふふふふふーん、ふふふ、ふーんふふーん、ふふふん」
鼻歌を響かせて堤防を少女が歩く。何かあったわけではないのだが、観鈴は上機嫌だった。いつものことである。
「ふーふふーん、ふふふーふふふふんー」
適当な場所に腰を下ろすと、彼女は持っていた風呂敷を開けてお弁当を取り出した。どうやら今日はここでお昼ご飯らしい。
「いただきまーす。」
なんて海に向かって手を合わせる。
「……となり、いいですか?」
「わわっ。……あれ、美凪ちゃん。」
「私もお弁当、です。」
「うん。いいよ。」
二人が話すことは特にない。ただ黙々と食べるだけだ。
最も、この二人で会話を成り立たせるほうが難しい、と周りの人は語る。それは、観鈴美凪のはわわーなリズムについていけないからだ、と語るのは、観鈴の同居人(人はそれを居候という)、国崎往人の弁である。
「平和ですね。」
「そうだね。」
右手を動かしながら、彼女たちは海を見て語らう。
「海の音きれいですね。」
「にはは。私この音好き。」
「まてこの地球外生物が!俺の人形を返せ!!!」
「ぴこーーっ!!!」

今日もこの町は平和だ。なんてったってかもめが気持ちよく空を飛んでいる。
「……翼を持つ鳥は、どこまで飛ぶんでしょうか。」
「きっと、高い、高い所へ飛ぶんじゃないかな。」
国崎往人ー!!」
「ごはあっ!」
「ぴこっ?!」

見上げた空は、とても青くて――気を許したら、吸い込まれそう。
「……では、高い高いところは、きっとよいところなんでしょう。」
「そうだね。」
「おのれーーっ!」
「にょわっ!離せー!」
「待てポテトー!」
「ぴこーっ!!!」
「にょわー!!」

騒がしい音がどれだけ響いても、夏の匂いと情景は、ただゆるやかに過ぎていく。
空が抱えていた儚さを、消すかのように。