sunny rain

まだ、雨は降っている。傘に打ち付ける音が、ちょっとした不安を駆り立てる。
−あの人、忘れてるのではないでしょうか?−
ほんの少しだけ、傘を握り締める手が震える。
−一人に、させないでください。−

 

「わりい、茜。」
そういってあの人が声をかけてくれたのは、約束の時間から10分ほど過ぎた後。
「浩平、約束の時間ぐらい守ってください。」
ちょっと辛らつな言葉を投げかけておく。これぐらいしたって、罰は当たりませんよね。
でも、あなたの罰の悪そうな顔を見ていたいわけではないんですよ。
「今日は浩平にも食べてもらいますからね。」
「マジかよ…」
…なぜみんなあれ、を食べるというとうんざりした顔になるんでしょうかね。私には、わかりません。あんなにおいしいのに。
「まぁ、行こうぜ。」
いきなり私の左手に伝わる、浩平のぬくもり。この人、わかってやってるんでしょうか?
「どうした?」
「…大丈夫です。いきましょう、浩平。」
そっと握り締めて、離れないように、離さないように。

今日は雨だから、でしょうか。普段混んでいる山葉堂も、閑散としています。いつもの常連客は着ているみたいですけど。
「じゃあ、俺頼んでくるから。」
「はい。」
浩平の後姿を見送って、私は邪魔にならないように道端に移動しました。
遠目から見るあなたは、何の変哲もない普通の人。でも、私はすぐにあなたがわかる。
そっと胸に手を当てると、少し鼓動が早くなるのを感じるから。
知ってますよね、私、雨の日が嫌いだったんですよ。
雨が降ると、またあなたがどこかへ消えてしまいそうで。
でも、今は好きなんです。
あなたのぬくもりが、よりいっそう感じられるから。
「茜ー」
あなたは、私の太陽、ですから。
「ありがとう、浩平。」
「おうよ。」

「でもよ、さすがに四個は食いすぎだと思うぞ。」
「そうですか?」
「…太ると思うけどなぁ…」
…浩平、それは思ってても口に出さないものですよ。
ちょっと腹が立ったので、早足で歩きました。
「わ、悪かった茜。」
もう、知りません。
「おい、茜」
少しはデリカシーというものがないんでしょうか、あの人。
「茜ー!」
「もう、なんですか。そんなに叫んでは周りの人にめいわ…」
……強引、なんですから。
「悪かった。」
横を向いたまま、私、歩みを止めてます。多分顔が赤いんでしょうけど。
「…三個で、手を打ちます。」
「えっ?」
「三個です。浩平もですよ。」
「…マジですか?」
「…マジです。」
「…わかりました。」
二人、また並んで歩き出す。そんな、暖かい雨の日の出来事。