Starlight Rain

季節は夏。その丘にも緑が茂っている。そう、そこが平坦であれば、まるで草原の様に。だが、暗闇の元であるだけに、いまいち緑が風景として目立ってはいない。逆に目立つのは、夜空に燦然と輝く星明りであろう。今晩は新月。月は、ない。
そしてその小高い丘の頂上、一本だけ生えている、得体の知れない大きな木。その木の元に、少女が一人、立っていた。

その姿は制服なのだろうか。端麗な少女の胸元には、銀十字が、時々映る町並みの…いや、星明りに照らされて、淡く輝く。
「…往人さん、遅いなぁ。」
そうつぶやく少女は、夜空を見上げる。その空を見ていたら、どこまでも吸い込まれていきそうで。
「はぁ、ひょっとして観鈴ちん、忘れられてる?」
どうも、そうだとしたら、思いっきり約束を反故にされたことになるようだ。がっくし、という擬音が似合うかのように、うなだれる、少女、観鈴
「往人さんと星見たかったなぁ…」
観鈴ー」
「往人さんと一緒に寝そべって…」
観鈴?」
「その後往人さんと…」
観鈴!」
「ひゃぁ!」
「ったく、何回呼んだと思ってるんだ?」
少女…いや、観鈴の前に、人が立っていた。身長は180cmといったところか。くそがつくほど熱いのに、黒の長シャツにジーパンと、まさに夏の暑さを一身に受けるべく着ているとしか思えないような服装。
「が、がお…」
ぽかっ
「い、痛い。どうしてそうたたくかなー。」
「お前ががおがお言ってるからだ。」
「が、がお…」
ぽかぽかっ
「一回しか言ってない…」
「俺の気分だ。」
「ものすごく理不尽なような気がする。」
「それより俺等星を見に来たんじゃないのか?」
「往人さん、話そらそうとしてない?」
「偶然にも俺は腹が減ってるんだが?」
「…はぁ。わかったよ。」
観鈴は持っていたリュックサックから、ビニールシートを取り出し、広げると、その上に座った。
「よっと」
「ふう、ようやく座れたぜ。」
「ずっと座ってたんじゃないの?」
弁当を取り出しながら、観鈴は首を傾げてたずねる。だが、あさっての方向を向いて話を続ける往人。
「………観鈴ちん、無視されてる?」