resign to the "virtual reality"(8)

そこへ行くまでに、ためらいがなかった、なんていうのは、ただの奇麗事。
でもそこについてみれば、しきりに周りと時計を気にする自分がいる。そんな自分にちょっと笑って、いつもの場所に立って彼を待つ。
どれくらいそうしていたのだろうか、前から彼が手を振って現れた。
「待った?」
「ううん。」
恋人らしいやり取りを交わす。
「じゃ、行こうか」
「だね」
茶店まで行く間にも、いろいろと話してた。将来のこと、ネット上のこと、日常。それらを話して間が楽しくて、それらが終わった後を考えると、少しだけ、切なくて。
「なんにする?」
「うーん…コーヒーで」
「大人だねぇ」
「何よ、悪い?」
「いいや。」
そういった彼もコーヒーだった。
「大人だね」
「なんだ、悪いか」
「ううん」
二人して、ちょっと笑った。
「そういえば知ってるか?」
「何を?」
「いや、あの人のサイトがさ……」
彼の話を聞いているだけだったのは、私の生活が代わり映えのしないものであるからだろう。いつもならもっと二人で言葉の応酬をし合うのに。
それほど、私の生活が単調すぎるものになっているんだ。つい半年前までの自分と、ずいぶん違う。
「しかし、変わったよな。」
「何が?」
「いや、みなが。」
私の心を見透かしたように、彼は切り出した。
少しだけ、動揺を隠せない私。声にも、少し出てる。
「そ、そうかな…」
「うん。なんていうかな、大人っぽくなったというべきか、無口になったというべきか。」
彼は頷いた。
「とにかく、変わったよ。」
彼の視線が私を射抜く。その時、ようやく気づいた。そして、とっさに頭に浮かんだ言葉を、そのままに切り出した。
「君が変えたんだよ。」
そして、私も、彼を見つめ返す。
「俺が?」
「そう。ほんとはね、私、今日あまり会いたくなかったんだ、君と。」
瞬間、その場の空気が凍った。